「さくらは本当に彼と一緒になる事が一番だと思うのか?」
「⋯どういう意味?」
「彼を選んで幸せだと、本当にそう思うか?」
「⋯意味がわからないよ」
「お前はただ意地になっているだけじゃないのか?」
「だからっ、お父さんは何が言いたいの?」
要領を得ない言葉たちに段々と苛立ちが募っていく。不安と焦りで、言葉尻が震えた。
「まだ彼の方が理解がある」
「⋯っ」
「自分の立場にも、さくら。お前の事にもだ」
「⋯何をしたの。ミナトに何を言ったの?」
予想はついていたけれど、お父さんは確実にミナトと接触している。何の為に?なんて⋯考えたくもない。
「こんな事したくなかった。だが、会社を背負う者として、親として、彼と話をした。身を引いてくれないと頼んだ」
「⋯っ」
「もちろん断られたが⋯会社の事、さくらの立場。この結婚の話が無くなればどれだけの損害が出るのか。それを話したら彼は酷く困惑していた」
「何を勝手なことっ⋯」
会社がどうだとか、利益がどうだとか、そんな事ミナトには関係ない。
それに優しいミナトの事だ。
損害とか、従業員がどうだとか、そういう話をされて傷つかないはずがない。
どうか、そんな言葉たちに惑わないで欲しいと願いつつ、脅しの様なお父さんからの言葉にミナトが深く傷ついていたらと思うと遣る瀬ない。
わたしの立場が、わたしの生まれた環境が、ミナトを困らせ傷つけてしまっている事が恐ろしかった。



