「彼には何としてでも身を引いてもらわなければならない。その為には少し汚い真似をしてでも、だ」
「何をしたの?」
「ただ、選ぶべき選択肢を教えてあげただけだ」
「選ぶべき選択肢⋯?」
ドクドクと音を立てる心臓を抑えて、あくまで冷静にお父さんの言葉に耳を傾ける。
「さくら。お前には果たさなければならない責務がある。ただこの家に生まれただけでそれを背負わせてしまうのは申し訳ないと思う。だが、この家に生まれたからにはお前にもこの家の事を⋯会社の事を大切にしてもらいたい」
「⋯」
「一之瀬さんと手を組めば、家と同じ分野で活躍する会社に差をつけられる。それは一之瀬さんの方にも言えること。互いに利益をあげられるし、今以上に事業を拡大する事も出来る」
「それはわたしと凛也さんの結婚が絶対条件なの?」
「⋯⋯その方がより強い結び付きが出来るし、家よりも力のある一之瀬さんからの条件だからだ。将来会社を継ぐ凛也くんを支える伴侶が欲しいと」
「それってわたしは一之瀬に嫁ぐっていうより奴隷みたい」
「そういう事ではない」
「わたしにはそういう事に感じる」
大体、結び付きの為に結婚とかいつの時代?って問いたくなる。
凛也さんと結婚して、わたしには何が残るっていうの。何を得られるっていうの。



