サクラアメ 【完】






「はっきり言ってわたしはミナトだけを愛してます。⋯口に出すことすら躊躇われますけれど、もしも、万が一にもわたしと凛也さんの結婚が成立したとして⋯何年経ったとしても凛也さんを好きになる事はないです」

「⋯随分とハッキリと言うんだな」

「凛也さんだって同じじゃないですか?」



凛也さんだってわたしを好きになる事は限りなくゼロに近いだろう。

彼もそれを肯定する様に小さく頷いた。



「そんな結婚に意味はあるんですか?」

「意味?」

「確かにこの結婚の話はお互いの会社がより良くなる為⋯ですが、本当にわたし達が結婚する事は必須なんでしょうか⋯」

「⋯」

「わたしも凛也さんを好きになれず、凛也さんもわたしを好きにはならない。そんな形だけの結婚なんて寂しすぎると思いませんか!?」



よく価値観の違いや愛情の薄れによって夫婦関係が悪くなるとは聞く。

だけどそんな人達だって結婚したばかりの時は少なからず、相手に対して愛情を持っていたはずだ。

だけどわたし達の場合、初めからそこに愛情など存在しないわけで。



「お父さんは凛也さんと結婚する事が、大人の言うことを聞く事が、わたしを幸せにしてくれるって言いました」

「⋯ああ」

「だけどわたしにはっ⋯、」

「⋯」

「このままじゃわたしと凛也さんが不幸へと向かっていっている様な気がしてならないんです」

「⋯」

「愛情がないまま、この先何十年も共に歩めますか⋯」

「⋯」

「凛也さんは愛する人はいないって言いましたけど、それは今現在の話であって、この先凛也さんに好きな人が出来た時、絶対に後悔します」

「そんな日は来ない」

「例えそうであったとしても、今よりもっと毎日に色が無くなりますよ」



退屈で、ただ決められた道しか歩けないわたし達。

もし、自分の意志を通さなければならない時があるならば、今しかない。