「愛する?そんな人はいないし、この先も現れない」
「それはわたしも含めて、という事ですか?」
「違うと言って欲しいのか?」
「いえ⋯」
凛也さんの纏う雰囲気はいつも冷たくて、怖い印象を与える。
だからこの人が誰かを心の底から愛しているというイメージは湧かないし、過去の会話からして本当にそう想える人がいないのも明らかだ。
だけど⋯。
「それって凄く寂しくないですか⋯?」
この先凛也さんに心から愛せる人が現れないと断言するのは間違っていると思う。
「俺に愛について説教したいのか?」
「そういうわけじゃないです。⋯けど、わたしはあなたの事が嫌いというわけでもないんです」
「⋯⋯何が言いたい」
真っ黒な瞳をわたしへ向けた凛也さんの表情はわたしの真意を探ろうとしている。
「言葉の通りです。わたしは凛也さんの事が嫌いなわけではないです」
冷たい。怖い。そんな印象がある凛也さんだけど、今だって会うと萎縮しちゃって何とも言えない圧を感じるけれど、苦手と嫌いは必ずしもイコールではないから。
むしろこの前彼の家や据に関する本音を聞けてわたしと重なる部分もあって。共感とまではいかなくても彼とわたしの中で同じ気持ちがほんの少しだけでもある事を知れたから。
「わたしはミナトと幸せになりたいし、凛也さんにも幸せになって欲しいと思ってます」
それは嘘偽りのない気持ちだ。



