「ミナト⋯シャワーありがとう」
「⋯⋯あ、うん」
脱衣場を出てミナトの部屋へと向かえば、わたしの姿を見て一瞬動きを止めたミナトだけどすぐにハッとした様に表情を動かして「俺も浴びてくるから。適当に寛いでて」と言って部屋を出てしまった。
「寛いでてって言われてもなあ」
一人残されたわたしは、とりあえず部屋の真ん中にあるローテブルの前に正座をした。
だけどやっぱり、どうにとこうにも落ち着かない。
普段ミナトの髪の毛からする香りと同じ匂いが自分の髪の毛からもして、借りたスウェットはなんだかミナトに抱き締められているみたいで⋯。
「ミナト⋯、」
つい袖を鼻に当てて息を吸い込んだ自分に気付いた時はさすがに引いてしまった。
ミナトの部屋は意外と物が多くて、その大半は参考書だったり漫画本だったりが占めていて、汚くはないけれど綺麗過ぎないその部屋はなんだか少しわたしの心を落ち着けてくれた。
本棚に並べられている本の中には教育に関する本も何冊かあって、ミナトが教師になりたいと言っていた事を思い出す。
「本当、凄いなあ」
ちゃんと夢があって、そこに向かって努力していて。だけど何でもスマートにこなしてしまうイメージもあるから、参考書などが並んだ本棚を見て努力家であるんだという事を再認識した。



