走って駅まで着いたはいいものの、瞬く間に雨は激しさを増していったせいでわたし達の服は見事にずぶ濡れになってしまった。
「さくら大丈夫?」
「大丈夫じゃない⋯」
「だよね」
まるで水浴びをした様に濡れているお互いを見て、つい吹き出してしまう。
だってさっきまで普段よりちょっぴり気合いの入った格好をしていたのに、今じゃびしょ濡れ。
「⋯っはっくしょん!」
しかも季節は12月。
雨に濡れた体がどんどんと体温を失っていくのがわかる。
クシャミをして、両腕を擦るわたしを見てミナトが何かを考える様に視線をさ迷わせた。
「なぁ、さくら。一つ提案があるんだけど⋯」
「提案?」
「今から俺の家、来る?」
それはまさに急転直下。
頭の片隅にもなかったその言葉に、思わずフリーズするわたし。
だって、今日はクリスマスイブ。
恋人たちの聖なる夜⋯。
そんな日にミナトのお家にお邪魔するなんて⋯⋯。
ふしだらな妄想が膨らみかけた所で、ミナトが慌てて声を発した。
「待って、違う、このままじゃ風邪ひくし⋯俺の家はここから二駅でさくらの家より近いし⋯だからその⋯、雨宿り的な事で⋯、」
その慌てっぷりは何だかわたしの考えていた事を見透かされてしまったみたいで恥ずかしくなったけれど、うん。そうだよね。この状況を見て言ってくれた言葉だ。
わたしってば、少し変態なのかもしれない。
と自戒しながらも、このまま帰るのもアレだし、ミナトがいいよって言ってくれているのであればそれに甘えさせてもらおう。
「うんっ、わたしこそごめんね。そうだよね、二人ともずぶ濡れだし⋯お邪魔させていただけたら嬉しい⋯かも」
「わかった。とにかく、風邪引かない内に急ごう」
こうしてわたしは、きっとこの先絶対に忘れられないであろう夜を過ごす事になった。



