ドキドキとして凛也さんの言葉を待つ。

その時間は永遠にも思えた。



「顔を上げろ」

「頷いてくれるまで上げる気はありません」

「顔を上げなければ俺から話すことは何もない」



ここで引いてはダメだと思いつつもそう言われてしまえば顔を上げるしかなく⋯。

上げた先、目の前に座る凛也さんは無表情でその顔からは次に出る言葉がどんなものなのか全く予想出来なかった。



「気持ちはわかった。お前には好きな男がいて、その彼と共になりたいと」



そしてゆっくりと落とされていく言葉を、固唾を飲んで心の中で反復していく。
凛也さんの言葉を聞き逃すまいと、早く、結論を、と。逸る気持ちを抑えながら。


けれど、ほんの僅かに凛也さんの表情が固くなり厳しいものになる。



「だが、この婚約をなかった事にする事は出来ない」

「っ」

「わかるだろう?失うものが多すぎる」

「そんなのっ⋯、」

「この話は互いの会社に利があるから結ばれた約束だ。君の気持ち一つで白紙にするなんてできっこない。仮に出来たとして、やはり失うものものが大きすぎるんだよ」



普段と変わらない、低く威圧的な声。

だけどどこかそこに彼なりの優しさが混ざっていた様に思えるのは気のせいだろうか。




──────きっと、気のせいなんかではなかった。



この時凛也さんは家や会社の事を言っているのではなく、わたし⋯そしてミナトの事を言っているのだと、早く気付いていれば────。