「彼は」
「え?」
「相手の彼は何と言っている」
心底呆れながらもどうやらわたしの話を聞いてはくれるらしい凛也さんに全て正直に話そうと決める。ここで誤魔化したり有耶無耶にしても何の意味もない事は明白だから。
「彼は⋯わたしに婚約者がいると知っても好きだって言ってくれました。一緒に戦ってくれるって、わたしと一緒にいたいって言ってくれて⋯」
「まるで白馬の王子様⋯いや、正義のヒーローだな」
「そんな言い方⋯」
明らかに馬鹿にしたその言い様にイラッとしけれど、凛也さんの立場を考えてみればわたしたちの事を快く思ってくれるはすがないのは当たり前だった。
彼だって色々な葛藤を経てこの婚約を受けると決めたのだろう。
憎い家の為に。希望の見えない将来を受け止めたのだろう。
「凛也さん」
「何だ」
顎に手を当てて悩ましげな表情を見せる凛也さんに申し訳なさが無いわけではない。
わたしがミナトと一緒にいたいと願う事は、周りに迷惑をかける。今目の前にいる凛也さんだって酷く困惑している。
だけど⋯、だけど。
「ごめんなさい。わたしはどうしても好きな人⋯ミナトと一緒にいたいんです」
「⋯」
「好きだから諦めたくない」
「⋯」
「お願いします。わたしとの結婚の約束をなかった事にして頂けませんか?」
お父さんがダメでも凛也さんの方から断ってくれたら──────。
「わたしの事をどれだけ罵倒していただいても構いませんから。だからこんな女は願い下げだと、そう言ってください」
「は、」
「お願いします」
覚悟を決めて下げた頭。
これはお父さんに対する裏切り行為だと、ちゃんとわかっている。



