「正直、さくらのお父さんに初めて会って怖気付いたところはある。⋯あんな真正面から反対されてショックを受けなかったわけではないし」

「うん⋯」

「前にも言ったように俺はごく普通の家庭で育ったし、婚約とか正直現実味がないって思ってる」

「うん⋯」

「だけどさくらのお父さんに会って、ぼやけていた物が鮮明に、明確になったっていうか⋯そういう現実があるんだって、やっと現実を見れた気がしたんだ」



ゆっくりと言葉を選びながらも本心を伝えようとしてくれているミナトにドクドクと鼓動が速くなっていく。

もしかしたらミナトは離れようとしているんじゃないかって嫌な予感が頭を過ぎる。



もし、ミナトが無理だって言ったら。

もし、ミナトがさよならを選んだら。


その時わたしは素直に頷けるだろうか。

わかったとその答えを受け入れる事が出来るだろうか。



「ミナト⋯」



きっと、出来ない。

ミナトの温もりを知ってしまったから。

ミナトという人間に出会ってしまったから。

もうわたしはあなたから離れる事など出来ないと思う。



縋るように不安で揺れた声を出すわたしは弱くて狡くて。だけどどう思われてもいいからわたしの手を離さないでいて欲しい。



「だけど─────、」


泣きそうなわたしの声に、まるで安心していいよと言う様に。僅かに微笑んで見せたミナトはその光を多く反射させた綺麗な瞳でわたしの事を真っ直ぐに見つめたんだ。