「ただ⋯好きなだけなのに⋯」

「さくら⋯」

「何も悪いことなんてしてないのにっ⋯」

「⋯っ」

「なんで⋯わかろうとしてくれないのっ?」



ポタリポタリと溢れていく涙を止める術はない。ただただ、心が苦しくて痛い。



「ミナトと会えば、わかってくれるかもしれないって⋯そう思ってたのに⋯」



愛し合っているわたし達の姿を見ればお父さんだって考えを変えてくれるかもしれないって、そんな事を考えていたわたしは甘かった。



「さくら⋯、お父さんにも色々あるの」

「⋯、」

「さくらの気持ちだって痛いほどわかるけど、だけどね、」

「わかるわけないじゃない!!」



そっとわたしの肩に手を添えようとしたお母さんの手を振り払う。

その行為にか、それともわたしの怒鳴り声にか、ビクッと揺れたお母さんの瞳。親にそんな顔をさせるなんて悪い子だ。
たけど今は罪悪感よりも苛立ちの方が大きかった。



「わかるわけないじゃん⋯結局お母さんもお父さん側の人間で、わたし達が別れればいいと思ってるっ⋯。わたしの気持ちなんてどうでもいいって思ってるっ」

「そんな事っ⋯」

「ないわけない!もし本当にわたしの気持ちをわかってくれていたら、わたしは今よりずっと心強いはずだよっ」

「あっ⋯、さくら!」



吐き捨てる様に言葉を投げつけてその場を去るわたしにお母さんが慌てて呼び止めようとするけれど、名前を呼ぶ声が煩わしくて無視をした。

足を止めたところで何も変わらないから。

お母さんはお父さんの肩を持つ。

大人だから。会社の事を案じているから。

わたしを説得しようという意図が見え透いているから。