「なんでっ、あんな事言ったのっ!?」



手を引かれたまま玄関に入った瞬間怒鳴る様に言ったわたしにお父さんはキッチリと締められていたネクタイを指で緩めながら気怠げな瞳を向けた。



「お前に言っても埒があかないなら、相手の方から身を引いてもらうしかないだろう。それも中々難しそうだったがな」

「身を引くって⋯、わたしとミナトは別れない!お父さん達の言いなりにはならないよ!?」

「それが子どもだと言っているんだ。状況を考えればお互いに何が一番最善なのかわかるだろう」

「なんでっ⋯、好きな人と一緒にいたらいけないの?」

「世の中に男はさっきの彼だけじゃない。一之瀬さんの事を良いと思う日が来るだろう」

「そういう事言ってるんじゃないよ」

「とにかく、この話は終わりだ。お互いの為にもなるべく早く離れた方がいい」

「ちょっと、待ってよ!お父さん!」



そしてお父さんは自分の言いたいことだけを言い終えるともうわたしの方なんて見向きもせずにそのまま家の中へと足を進めて行った。


なんで。どうして。わかってくれないの。

ミナト以外の男の人とか、凛也さんか、そういう事じゃない。

わたしはミナトの事が好きで、だから一緒にいたくて。ただ、それだけなのに⋯。




「───────さくら」

「⋯⋯お母さん」



ポタリと零れ落ちた雫が浴衣に染み込んだ時、わたし達の声を聞いたお母さんが玄関へとやっと来た。



「花火大会、楽しかった?」



どうしたら良いのかわからない。といった表情でそんな事を口にするお母さんに今のこの状況が見えていないの?と苛立つけれど、家に帰ってきてお手伝いさんからわたしが花火大会に行った事を聞いたであろうお母さんは、その相手が凛也さんではない事に気付いただろう。

相手が凛也さんであれば、お父さんもお母さんも事前に知っているはずだから。

だから、相手が必然的にわたしが付き合っていると宣言したミナトだという事に気付いていたお母さん。それでも今、わたしを責める様な事を言わないのは、母の優しさからか、哀れみからか。