「有馬さん。あの話は、聞いているね?」



核心を突く様に、一段と重さを増したお父さんの声にわたしただけじゃなくミナトまでが唾を飲み込んだ。

あの話なんて、もう分かりきっていた。


三人を取り囲む空気が張り詰める。


もう、花火大会の、キスの余韻なんてない。


ただただ緊張感がわたし達を包み込んだ。




「聞いて、います」



緊張感を持ちつつも、ゆっくりと確実に言葉を紡いだミナト。その声はちゃんとお父さんにも聞こえていた。



「なら率直に言わせてもらう。娘と別れて欲しい」

「っお父さん!」

「これは頼みではない。君にはその選択肢しかない」



キン、と響くわたしの叫び声をまるで聞こえていないかの様に無視をして言葉を続けるお父さんの目にはミナトしか映っていない。



「酷なことを言っているのは重々承知している。だが、こちらも譲るわけにはいかないんだ」

「⋯っ嫌ですと言ったら?」

「何としてでも別れてもらう。家の、会社の未来が掛かっているんだ。君にはわからないかもしれないが」

「─────お父さん!!!」



もう一度叫ぶわたしの手を、ミナトが握った。

それは私に絶対的な安心感を与えてくれる。



「会社の為ならさくらの未来はどうでもいいんですか?」

「⋯なんだと?」

「さくらは俺に一緒にいたいと言ってくれたんです。もちろん俺もそう思っています」

「⋯こちらからは別れてくれとしか言えない」

「⋯っそれでも俺はっ、」

「これは家の問題だ。部外者の君には身を引いてもらう他ない」

「⋯っ」



厳しく突き放すお父さんの言葉にミナトが悔しそうに握る手のひらに力を込めた。

さすがにわたしも黙っていられなくて口を開く。お父さんがそうした様に、わたしもお父さんを突き放そう。



「お父さんの方こそ、部外者だよ」

「どういう意味だ?」

「わたしの未来はわたしが決める。誰と共に過ごすかもわたしが決める。わたし達の間に口を挟まないで」



ミナトがいれば。ミナトが隣にいてくれれば、何だって出来る気がした。

その感覚は気が大きくなる事ととても似ているけれどそうじゃない。

勇気が出るって、こういう事なんだと思う。