「今日は花火大会があって、今はその帰り。彼⋯、ミナトが送ってくれたの」
「⋯⋯彼が?」
「うん。そうだよ」
わたし達の目の前までやって来たお父さんの「彼が?」という言葉は、送り主の事を指したわけではない事は明白で。
彼が、わたしの好きな人。付き合っている相手なのかという問いであるのだと瞬時に悟ったわたしはお父さんから目を逸らさずに頷いたんだ。
「あの、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。南高校三年の有馬 湊です。さくらさんとは⋯、お付き合いさせて頂いています」
わたしとお父さんの間に僅かな沈黙が訪れた後、焦った様にミナトが声を発した。
珍しく緊張している様に聞こえる声色だけれど、お父さんの方を真っ直ぐに見据えるミナトの顔には迷いなんて微塵もなくて。
お父さんを前にしてキッパリと付き合っているのだと言ってくれたミナトに、わたしの方が勇気づけられた。
「有馬さん、だね。娘から話は聞いているよ。真剣に交際していると」
「はい」
「想像した以上に好青年だな」
下から上まで見定めるみたいにミナトの事を見つめるお父さんはどこか自嘲的な笑みを浮かべる。
「この子は今まで色恋沙汰の話をした事がなかったから、急に好きな人がいると聞いた時はどうせ変な男に引っかかったのだろうと。今この目で君を見るまでろくでもない人間に夢中になっているのだろうとそう思っていたんだ」
「⋯、」
「しかし違った様だ。南高校といえば有名な進学校ではないか?礼儀正しいし、君が娘の事を大切にしてくれているのもわかる。どうやら娘の目は節穴ではなかった様だな」
淡々と言葉を続けていくお父さんは、ミナトの事を褒めている。まるでわたし達の事を認めてくれたんじゃないかって、そう思ってしまう程にミナトを認めている。
───────はずなのに。
何故だがこの後に続く言葉が良くないものだと確信してしまった。



