「お父さん⋯」
わたしの声にミナトが息を飲んだのがわかった。
いつかは、ミナトとお父さんが会う事もあるかもしれないと思っていたけれどそれがこんなにも早いなんて。まさか、こんなタイミングだなんて思わなかった。
「もう一度聞くが、こんなところで誰と何をしているんだ?」
コツ、と靴音を鳴らしてこちらへと向かってくるお父さんに一体何からどう話せばいいのかわからなくなる。
「今日出掛けるなんて聞いていないが」
お手伝いさんには花火大会に行くことを伝えてあってもお父さんには伝えていなかった。
だって、絶対に誰と行くんだって問い詰めるでしょ?相手がミナトだって分かれば、絶対に家から出してはくれなかったでしょ?
だからお父さんには内緒で出掛けたというのに⋯まさかこんな時間に珍しく帰ってくるなんて。
「⋯お父さん、」
お父さんに反対される事が怖い。
それでミナトを傷つけてしまう事が怖い。
ミナトが離れていってしまうかもしれない事が怖い。
それでも、逃げられるはずもないから⋯。
裾を掴んでいた手をそっとミナトの手のひらへと回す。
そしてその手を強く強く握った。



