お父さんと鉢合わせる確率はゼロではない。
けれどその確率は限りなく低いものだと思う。それなのに鉢合わせてしまうわたしは、どこまでもツイてないのだう。
「あ、わたしの家ここなんだ」
「⋯そうだろうなとは思ってたけど、大きいね」
歩いて十分程経ち着いた自宅を指させば、首をグッと曲げて家を見上げるミナトに思わず笑ってしまう。
「そんな東京タワーじゃないんだから」
「いや、豪邸じゃん。ていうか門デカいし」
「一応、お嬢様だからね」
ふざけてそう言うわたしにミナトは「うん、本当にそうみたい」なんて冗談めかして言うけれどその微笑みは少しだけ固くて、あ、間違えたと瞬時に後悔をした。
お嬢様と呼ばれるわたしと、一般家庭のミナト。
決してミナトの家柄を馬鹿にしているわけではなく、今わたしは明確な線引きをしてしまったのだと思った。
いつもの様に「お嬢様だ、らしくない」の話をしているならいい。だけど今は、わたしの家という物を目の前にして、初めてわたしが華山の一人娘だという事を目の当たりにしてしまったミナトに対して「お嬢様だから」なんて言葉を使うべきではなかった。
まるでわたしとあなたは違うんだよ。と、そんな意図これっぽっちだってなかったのだけど、ミナトの違和感のある笑みを見ていると数秒前に戻って自分の口を塞ぎたくなった。
「⋯ミナト、」
馬鹿馬鹿馬鹿。わたしはとんだ大馬鹿者だ。
そんなつもりなかったんだよ、ミナトとわたしは生まれた家柄は違くたってそこには何の問題はないんだよ、ねぇ、好きだよ。
発してしまった言葉を取り消したくて縋る様にミナトを見上げるわたしに降ってきたのは、
「好きだよ、さくら」
まるでさっきの心地悪い微笑みが嘘だったかの様な優しい表情と甘ったるい程の愛の言葉で。
繋がれている全てを受け止め受け入れてくれているミナトの手にきゅっと力が込められる。



