家の最寄り駅に着くと、まだ離れたくないと思ってしまったわたしは「うち、すぐそこなの」と言ってミナトと共に家路を歩く。
駅から数分歩けば辺りはすっかりと閑静な住宅街だ。
ポツリ、ポツリと並ぶ街灯が照らすアスファルトをカランと鳴らすわたしの下駄とミナトのスニーカーの音だけが耳に届いて、何だか不思議な感覚に陥る。
楽しかったお祭り。賑やかで美しい花火。
それとは対照的に時が止まったかの様な静かなキス。
思い出しただけで恥ずかしくて温かい先程の時間は、不思議なことに懐かしくもあり。
つい十数分前のことだと言うのに、どこか侘しさをも感じさせる幸せな一時に浮かれていたのだと思う。
「ごめんね、家まで遅らせちゃって」
「全然。もう九時過ぎてるし一人で帰す方が心配だから」
「ありがとう」
「いーえ、」
きっと、浮かれていた。
まだまだ離れたくなくて、繋いだ手を離したくなくて。
ミナトと一緒に家まで帰れば、お父さんと鉢合わせてしまうという可能性がゼロではない事はわかっていたはずなのに⋯。
はずなのに、そんな事考えている余裕はなかった。
一緒にいたい。
その想いだけで行動を繰り返してしまうわたし達はきっと、間違った選択をいつかしてしまう気がした───────。



