生ぬるい夜風が二人を包む。
「すまない⋯さくら」
弱いという娘の涙を前にしても尚、お父さんは頷いてはくれなかった。
「これが、最善の選択なんだ」
「⋯最善なんて、ないでしょ?っお父さんにはこの選択しかないんでしょっ⋯?」
「悪いようにはしない」
「⋯っ」
「悪い事も言わない。彼とは早く別れた方がいい。それがお前の為でもあり、彼の為でもある。思い出は少ない方がいいだろう?」
「なに、それ⋯」
どうして泣いている娘を前にそんな残酷な事が言えるの?
わたしはミナトとの未来を手放したくないし、いっぱい幸せな思い出を作りたいよ。
「好きなの⋯。わたし凛也さんじゃなくてミナトの事が好きなの!」
「⋯」
「なのになんでっ⋯、なんでっ?」
「親としてはそんな顔をさせたくないのが本音だ。だがな、私はさくらだけが大切なわけじゃない。家で働いている社員は皆家族なんだ」
「そんなの狡いよっ⋯」
「本当にすまないと思っている。だが凛也君はきっとお前を幸せにしてくれる」
そんなのはただの願望でしかない。
嫌だと泣く娘を嫁がせる家の男が娘を幸せにしてくれるなんて、そんなのお父さんの罪悪感を軽くしてくれる願望でしかない。
凛也さんが悪人だなんて言わないよ。
怖い人だとは思うけれど悪い人だなんて思わない。
だけど彼がわたしを幸せにしてくれるとは思えない。
─────ううん、彼じゃなくて、わたしがミナトが居ない未来で幸せになれる気がしないんだ。
ミナトを想ったまま凛也さんも居ても、絶対に幸せになんてなれない。



