夜、喉が乾いたなと思いキッチンに行く。
その途中バルコニーの扉が少し開いていて、閉め忘れかな?とバルコニーを覗けばお父さんがいた。
穏やかな風が微かに髪の毛を揺らす。
「お父さん」
「⋯⋯さくらか」
声を掛ければ椅子に座っていたお父さんがこちらを振り向き、手にしていた煙草の火を消した。
「お父さんが煙草を吸うなんて珍しいね」
「仕事をしていれば上手くいく事ばかりじゃないからな」
「⋯そっか」
お父さんは直接口にこそ出さないが、きっと凄く悩んでいるのだろう。
それは会社の経営もだけど、主にわたしの事で。
わたしが婚約は嫌だと駄々を捏ねているから精神的に疲れてしまっているのだろう。
「そんなに疲れてるなら放り出しちゃえば?」
「何を馬鹿な事言ってる」
「その方がわたしにとってはラッキーだよ」
わたしの説得なんて諦めてしまえばいい。
わたしにだって譲れない想いがあるんだから。
「俺が諦めたら会社はどうなる」
「何か方法がある」
「その方法とやらを全てお前がやってくれるのか?」
「⋯」
「更に会社を大きくする方法を、今いる社員を守る方法を、さくら。お前が全て責任を持って試してくれるのか?」
「⋯それは、」
「失敗は許されないんだぞ」
ふわりと夜風が頬を撫でる。
真剣なお父さんの瞳は、一人の父であり、そうではない。



