その後は気まずくて会話が弾むことはなく食事を終えた。
今までだって会話が弾んだ事なんてなかったけれど今日は一段と間に流れる空気が重い気がする。
それはさっきまで今日は口数が多いなと思っていた凛也さんがいつもと同じ様に黙ったからじゃなく、明らかにわたしのせいだ。
ホテルを出て「今日はもう送っていく」と言った凛也さんは行く時とは違い車のシートに背をつけて目を瞑っていた。
「あの⋯、」
「⋯」
「すみませんでした⋯」
「⋯」
「だけどわたしはやっぱり、自由が欲しいです」
目を閉じているその眉間には皺が刻まれているけれど、ここで臆しても何も変わらない。
自分の為に、ミナトとの未来の為に。
「納得が出来ない結婚は出来ません」
静かな車内でクリアに響いたわたしの声は僅かに震えていたと思う。
「何を言っているかわかっているのか?」
「会社は大切です。だけどお互いの会社をより良くしていく方法がわたし達の婚約だけだとは思いません。⋯もっと違う方法もあると思うんです」
「だがもうこれは決められた事だ。先程も言ったが、俺たちでは簡単には覆せない」
「結婚は両者の合意のもと交わされる契約です」
「契約、か」
視線だけをこちらに向けて腕を組む凛也さんはそう呟いてから「どうしても嫌なら全てを捨てるしかない」と残酷な言葉を落とした。



