そして暫く黙ったままだった凛也さんは「そうだな⋯」と呟く。



「好きでもない男と家の為だけに結婚するなんて嫌に決まっている」

「⋯」

「正直に言えば俺は一人が好きだし、出来ることなら結婚なんてしたくない」

「っなら────、」



「わたし達でこの婚約をどうにか白紙にしませんか?」と続くはずだったわたしの言葉は凛也さんの鋭い声によって遮られる。



「しかし嫌だと言ってそれが通る事はないとお前もわかっているだろう」

「っ」

「そういう家に生まれてしまった。そういう立場に生まれてしまった。それはいくら嘆いたところで変わる事はない」

「⋯そんなの、」

「あまりにも勝手だ。俺たちの親は会社の利しか考えず、この婚約で犠牲になるのは俺たちだ。お前の気持ちもわからなくはない」

「⋯、」

「だが、嫌だからと言ってこの婚約をなかった事にすることは出来ない」

「⋯っ」

「会社の先を左右する決断を俺たちが簡単に覆せるはずがないだろう」

「⋯」

「悪いが諦めろ」



お父さんと同じ様に突き放す様に放たれた言葉はわたしの心を冷たく覆っていく。

見えていた光が一気に離れていく。

彼もまた、味方ではなかったのだと思い知る。



「本当にそれでいいと思ってるんですか?」

「良いも悪いもない。それしかないんだよ」

「家に利用されてるんですよ?本当にわたしと結婚する事が凛也さんの為になるんですか?」

「一之瀬という家に生まれたからには会社を守るのが一番だ」

「⋯⋯」



自分の将来はどうでもいいのだと言う凛也さんにこれ以上何も言えなかった。