「あの、ですね凛也さん⋯」

「⋯」

「あの、その⋯、えっと⋯」

「口に合わないか?」

「そんな事はない⋯ですけど⋯、」




今は正直、味なんてどうでもいい。

ていうか今は何を食べても味なんてわからないだろう。





───────あれから。


凛也さんはいつもの如く無口に戻り、ホテル一階にあるフランス料理店へと足を進めた。

もちろん、ホテルに入ってからはきちんとわたしをエスコートして。



そして今、わたしは何とかローストのなんとかかんとかってお料理を食べているのだけど、料理名すら思い出せない程に、意識は料理に向いてなどいなかった。

コースの前菜だって何だったのか、思い出せないし。




「今日はいつにも増して食べるのが遅いな」

「⋯すみません」

「⋯やけに顔が青いがどうかしたのか?」



これはわざとなのか否か。

まさか凛也さんが揶揄うなんてと思ったけれどこれはもしかしたら試されているのかもしれない。


わたしがもう一度あの話を出すのか、このまま何もなかった事にするのか。試されている。




「凛也さんて意外とよく喋るんですね」

「そうか?」

「はい。多分、初めて顔を合わせた日から今日が一番会話を交わしていると思いますよ?」

「興味のある話なら言葉数も増えるのは当然だろう」



という事は、凛也さんはわたしの話に興味があるという事で。


さっき消えかけた彼が味方になってくれるかもしれないという希望がまた見え始めた気がした。