予測していなかった衝撃的な発言に何も反応出来ず固まるわたしを車内に置いてホテルの入口へと進んでいく凛也さんにヤバいと心臓がドクドクと動く。


いや、何もヤバくはないし、凛也さんにもわたしに結婚の意思がない事を知っておいてもらうのは重要だ。

だけどそのタイミングは今じゃない。

あんな、会話の流れで⋯みたいなのを望んでいた訳じゃない。


もっと、真剣に。

もっと、誠実に。


この婚約の関係者で唯一味方になってくれるかもしれない彼に、誠心誠意、わたしの気持ちを話すつもりだったのに。


もし、嫌な気持ちにさせていたら?

凛也さんのお父様に今のことを話されてしまったら?


華山はきっと凄く厳しい立場に立たされる。


結婚をするつもりなんて毛頭ないけれどお父さんや華山の家に務める人たちを不幸にしたい訳ではない。



「あああ、あの、ありがとうございましたっ⋯!」



わたし達のプライベートな会話は聞こえてしまっていただろうけれど運転手の方は上に告げ口する様な事はしないだろう。

それがどんな内容であっても車内で交わされた会話を運転手という立場の彼が漏らすのはルール違反だから。
そしてそれを運転手の方自身も弁えているだろう。

絶対に運転手の彼は今の話を漏らす事はないと判断して、ここまで送ってくれたお礼だけを口にしてから急いで車を下りた。


丁度、凛也さんがホテルの入口を潜ったところだった。