「父や母の事は尊敬しているし、二人が背負っているものの大きさも痛いほどわかります。だけどあの家は寂しいんです。わたしを⋯華山さくらという人間を一人の人間として見ていないんじゃないかって、そう思うんです」



父と母の愛情を感じていない訳ではない。

いくら家族で食卓を囲む事が稀だったとしても、厳しく育てられたとしても、そこに親の愛がない訳ではないと思う。


だけど17歳のわたしのこの先の人生をご丁寧に全て用意してくれちゃっている両親は、果たしてわたしを一人の人間だと思ってくれているのだろうか。


感情のある、好きな人に愛を感じ、そして愛を伝えたいと思う一人の人間だとわかっているのだろうか。



会社の為の結婚なんて、まるで道具じゃないか。




「なんだかお前は随分素直みたいだな」

「⋯そんな事ないと思いますけど」



わたしの事を見ながら微かに肩を揺らす凛也さんはどこか楽しそうにその口角を上げている。

こんなに話が続いたり、笑ったり。

今日の彼はなんだかいつもと違うな?と思った時丁度、走っていた車体がゆっくりとスピードを落として止まった。


そして元から聞こえていないくらい静音を保っていた走行音が完全に止み、凛也さんが言葉を紡ぐ。



「この婚約になっとくしていないというのがヒシヒシと伝わってきた」

「っ!」

「ただの反抗期という訳でも無さそうだ」



悪戯に、笑いながら。