「家が、嫌いですか?」

「嫌いとはまた違うな。憎い、というべきか」

「憎い⋯」

「一之瀬という家に生まれてしまったが故に自由なんてなかった。そしてそれはこれからも変わらない」

「⋯」

「それはお前も同じなんじゃないか?」



鋭い漆黒の瞳に見つめられて息を飲む。

やっぱり、全てを見透かす様なその目はお父さんに似ていて鼓動が速くなる。




この時、もしかしたら凛也さんはこの結婚を⋯と一縷の望みが見えた、気がしたのも束の間。



「まぁ、雁字搦めの毎日の代わりに良い暮らしをして、名門校に通い、一握りの成功者しか見れない景色を見ることが出来る訳だから、プラマイゼロという所か」



彼もまた、この婚約を受け入れるつもりなのだと肩を落とす。



「⋯わたしにはマイナスが多すぎる気がしますけど」

「⋯というと?」

「名門校に通うことも、権威ある立場になる事も、この家に生まれた事だって、わたし達が望んだわけではないじゃないですか⋯」




目を逸らしそう呟くわたしに凛也さんは「随分と子どもっぽい事を言うんだな」と嘲笑した。