「分かってる、けど…」

「けど、何だ?
お前が断れば社員も、ここで働いてる家政婦達にも影響が出るんだぞ」

「…っ」



お父さんの言葉が突き刺さる。


組めば利益。

でも、この話を断れば、お父さんの言う通り色んな人に影響が出る。




「話はそれだけか」


黙ったわたしに対してお父さんはそう言って立ち上がろうとした。



「待って…!」



それを必死に止めた。




「お父さん、わたし断りたい」

「…はあ、」



お父さんがもう一度椅子に座ったのを確認してそう言うとお父さんは呆れたようにため息を吐いた。





「好きじゃない人と結婚なんて出来ないよ」

「さくら」


お父さんが咎めるように名前を呼んだけどそれに答えず、続けた。




「お父さん、お母さん聞いて」



そしてお父さん、お母さんの瞳を見つめた。





「わたし…わたしね、」



ドキン、ドキン、と、心臓が跳ねていた。



「わたし、好きな人がいるの」