「どうして…」

お父さんの表情は変わらない。


「お前も分かるだろ?」

「会社の、この家の為」



そう言うとお父さんは小さく頷いた。


「そもそもこの婚約の話は一之瀬さん側から持ちかけられたものだ。
会社の立場的に一之瀬さんの会社の方がウチより上だ」



お父さんは続けた。




「それに、一之瀬さんと結婚すればウチの会社も大きくなる。
一之瀬さんの会社もウチと組めば利益が出る。それに一之瀬さんの会社は世界的に有名な企業だ」




お父さんのその鋭い瞳は「意味、分かるよな?」と言っているようだ。




わたしの家の会社もまあまあ有名で大きいと思う。

だけど一之瀬さんの家の会社は世界的にもすごく有名な企業だ。

知らない人はいないほど。



だから、そんな家からの話を断ればウチの会社が潰されるかもしれない。


潰されるまではいかないにしろ、経営が厳しくなるのは確実。



そして、わたしの家と一之瀬家が組めばどちらの会社にも利益が出る。



だから、この話は断れない。