月下の輪廻

「ちょっと、リーファ! 私のディアス君に色目使うんじゃないわよ!」

「頼まれたって使わない」

「......俺の事も否定してくれたって......」


何やら口ごもってぶつぶつ文句を言うディアスを余所に、明日の朝に仕度を済ませてから、再び『マルシェ』に来るよう伝えられ、リーファネルとディアスは宿へと向かう。

日が沈みかけている為か、地面に映る影は濃くて長く伸びていた。

外に出ている村人も少なく、家々などからは美味しそうな香りが漂い始める。お腹も空いてきた。

《宿で食べるか》

そう考えながら歩いていると宿に辿り着く。


「そう言えばディアス。お前は金を持っているのか? ライセンスが無いと格安にはせずに通常料金になるぞ」

「あ......」

「......無いんだな」


呆れてしまって仕方がない。文句も失せてしまう。

しまった、という表情で立ち尽くしているディアスに、リーファネルは、バシッと背中を叩いた。


「いーーっ!?」

「仕方無い。宿代は私が出してやる」