月下の輪廻

「そうだが、お前は冒険者じゃないのか?」

「ああ、うん......。俺は冒険者を目指しているけど冒険者じゃない」

「何故、それでこんな場所に居るんだ?」

「......いや、ラファル村でライセンスを取ろうとしたら、村人達がフリクス草が足りないとか何とか言ってて、それで採ってこようと......」


語尾が尻すぼみに消えていき、風が葉を揺らす音で掻き消されていく。

つまりはライセンスも無いのに善意だけでシンラの森に踏み込んだ、と。

《お人好しな男だな》

悪い男ではないのだろうが、迂闊すぎる行動に呆れた溜め息しか出てこない。

リーファネルは後ろを振り向き、倒した魔物達を見る。もしかしたら、この男の命は無かったかもしれないのだ。自分が依頼を受けてここに来なければ......。

注意しようと顔を男へ向けたところで、座り込んでいた男が剣を鞘に納めて立ち、脚や服を叩いて汚れを落として笑顔を向けてきた。


「助けてくれて本当にありがとう。俺はディアス。ディアス=ナトレイって言うんだ」


そう言えば名乗っていなかった。すっと差し出された手と、男ーーディアスを交互に見詰め、リーファネルはそっと手を握る。