月下の輪廻

「お父様、お母様」


そう呼ぶと、二人に手を伸ばされて抱き締められる。強張っていた肩から力が抜け、リーファネルはそっと瞼を伏せた。

こうして両親の温もりに包まれるのはいつ以来だろう。それこそ、騎士となる為の鍛練を始める前の幼い頃以来ではないだろうか。

《騎士とはなれなくても、冒険者として、私は剣を取って戦える》

その為の鍛練は積んできたのだから。


「私は騎士になれずとも、コールランド家に生まれた者として、これから先も剣を取って弱き者を護り、記憶探しを終えたら必ず帰って来ます」


両親に、自分自身に誓うように。リーファネルは二人を抱き締め返して言葉を紡いだ。

突然蘇った記憶が大昔に存在していた吸血鬼のもので、欠片を探すよう言われ、生まれ変わりだと告げられ、目を覚ましたばかりの今日は、ずっと混乱したままだった。

でも。

決意を両親に告げられた事で、ようやく安堵の息が漏れる。

《明日、家を発とう》

不安を打ち消し、そろそろ休むと伝えて自室へと戻り、ベッドに横になって一息吐く。


「......シュヴァイツの、記憶......」


一人部屋の中で呟いた言葉は、夜の静寂に溶けては消えていった。