月下の輪廻

「ーーファ」


《誰......?》

柔らかくて温かい場所に自分が居る。それだけは何となくでも分かる。


「ーーファネル」


女の泣きそうな声が微かに耳に届く。

この柔らかな優しい声音はーー母だ。


「リーファ!」


愛称で頻りに呼ぶ声がはっきりと聞こえ、リーファネルは、ゆっくりと瞼を開けた。霞む視界が徐々にクリアに映る。瞳を潤ませた母と使用人の姿があった。


「お母様......」

「ああ、リーファ! 良かったわ。もう3日も目覚めないのだもの。......仕事をしているあの人もファリオ達も喜ぶわっ」


ぎゅっと抱き締められ、泣きながら喜ぶ母。

あの人とは父で、ファリオとは兄の名だ。今は二人とも、王家で騎士として働いている。

部屋に差し込んでくる陽射しが明るい。今は朝なのだろうか。

そう言えば、3日も目覚めなかったと言っていた。心配も無理からぬことだろうか。

リーファネルは母の背に両手を回す。温かい。

《ああ、私の居場所はやっぱりここだ......》