翌日、眠気をこらえながらふたりで政務をこなしていると、ルーメンティーとカルロティーが執務室に入ってきた。

ふたりは政務の手を止め、ルーメンティーたちが座った向かいのソファーに腰を掛けた。

「お話とは何でしょうか、父上。」

話があると言っていたルーメンティーの口から出たのは王位継承のことだった。

「ヴァルテリ、お前はもう王位を継承する資格がある。

どうする?」

王太子が生まれればそれまで国王だったものは退位し、王太子だったものが国王に即位する。

それがこの国の習わしだ。

現にルーメンティーもヴァルテリが1歳になる前に国王に即位していた。

「私は、もう少し時間が欲しいです。
今のままではよい国王になれる時間がないし、子どもたちとの時間も減ってしまいます。

もう少しだけ、即位を送らせてもらうことは可能でしょうか。」

「サクラとハイメが3歳になるくらいまでなら、どうにか大丈夫だろう。

ただ、即位を遅らせるとするなら、それ相応の覚悟があるということだな。」

新国王の即位が遅れると、国民は王太子には何かしらの問題があると思うだろうということをルーメンティーは暗に示していた。

「もちろんです。
今後はすべての議会にアイリーンとともに出席します。

そして今まで以上に視察を積極的に行い、国の内情を見極める力を養います。」

アイリーンも議会に参加するというのは以前ふたりで決めたことだった。

しかし、この国は女性も国王になる資格があるとうたっておきながら、女性の議会参加が認められていなかった。

ふたりはそこから変えていこうと、今回の結論にいたった。

「女性が議会に参加するということが大変な道のりだということはわかっているのか?」

女性は家庭を守るものと思っている貴族が議会ではほとんどを占めていた。

それはつまり、アイリーンの議会参加を快く思わない人が多くいるということ。

その状態でアイリーンが議会に参加すれば、最悪の場合、王太子妃の座から下ろされる可能性があるということだった。

「私はすべて覚悟しております。
ヴァルテリ様とこの国をよくしたいから、私ひとりが我慢すれば叶うのならば我慢します。」

「私は、アイリーンの力を信じている。
何があっても議会でアイリーンのことを守るから。」

アイリーンの覚悟、ヴァルテリの覚悟、それぞれがもう変えることのできないくらい強く望んでいるということがわかったルーメンティーはその後何も言わなかった。

「ヴァルテリ、アイリーンを守るんだぞ。」

「勿論です、父上。」