「刺繍、ありがとう。

母上からアイリーンは本当に刺繍が苦手で何度も自分の指を刺してしまったと聞いた。

それでも、こんなにきれいにスリジエの刺繍をしてくれてありがとう。」

ヴァルテリは自分の軍服の袖をめくると、アイリーンが刺してくれた刺繍を見せた。

「よかったです。
うまくできるかわからなかったけれど、カルロティー陛下がコツを教えてくださいました。」

今回アイリーンがヴァルテリの軍服にしたのは3つのスリジエの花だった。

うち2つは残り1つと比べると少し小さめで、色も淡いピンクであった。

「3つ刺したのは私たちをあらわしているんですよ。
大きいのは私とヴァルテリ様、小さいのは生まれてくる子ども。」

「そういうことだったのか。
アイリーン、この刺繍のように子どもたちが生まれてもずっと一緒にいよう。

アイリーン、後ろを向いて目を瞑って。」

アイリーンは言われるがまま、ヴァルテリに背を向けた。

ヴァルテリはアイリーンの首にルビーとダイヤがあしらわれたネックレスを付けた。

「目を開けていいよ。
そしてこっちを向いて。」

アイリーンは自分の首につけられたネックレスを鏡越しに見て、すぐにヴァルテリの方を見た。」

「これは…?」

「アイリーンへのプレゼントだ。
花婿からの贈り物は円満な家庭が築ける、そういう言い伝えがあると前に言っただろ?

それにアイリーンは一生懸命に刺繍をしてくれた。
俺も、その気持ちに応えたかった。

これは、俺がデザインしたもので、ここの三日月型のダイヤ部分に、俺のこのしずく型のネックレスをあわせると、ハート形になる。」

そう言ってアイリーンのネックレスに自分の胸元についていたサファイアのネックレスを取り出し、ぴったりとあわせた。

そうすると、先ほどヴァルテリが言っていたようにきれいなハート形になった。

「たとえ、一緒にいられないとしても、心はずっと一緒だ。」

「はい、ヴァルテリ様!
いつまでもヴァルテリ様と一緒に。」
アイリーンとヴァルテリはふたりの時間を堪能していた。

ヴァルテリはアイリーンにキスをしたいと何度か言っていたけれど、アイリーンはそれだけは許さなかった。

「駄目です、リンネがきれいにしてくれたので。」

「アイリーンはそのままでもきれいだからよくないか?」

「絶対に駄目です!
終わるまで待ってください!」

「終わったら、いいんだな?
その言葉だけを楽しみに式典を耐えるか…」