翌日、アイリーンが起きたときにはヴァルテリの姿はなかった。

部屋にはきれいに整えられたアイリーンのドレスが椅子のところにかかっているだけだった。

「ヴィック…」

アイリーンは自分が何も着ていないことに気がつき、下着とガウンだけを軽く羽織った。

「アイリーン様、お目覚めですか?」

扉の外から聞こえたのはリンネの声。

アイリーンが起きたことに気がつき、支度の準備を手伝いに来たのだった。

「ええ。
リンネ、入ってきて。」

リンネはアイリーンの部屋へはいるとクローゼットの中からワンピースタイプのドレスを持ってきた。

「本日はこちらにしました。
お着替えお手伝いさせていただきます。」

なぜ、このドレスを用意したのか、アイリーンは最初わからなかった。

しかしドレスを着たらなぜこのドレスなのかがわかった。

おなかの部分はスカートの膨らみで隠れてしまうので、コルセットをつける必要がなかったのだ。

リンネはアイリーンのことを気遣い、身体に負担のかからないものを選んだんだとわかると、アイリーンは少しうれしくなった。

そして髪の毛も両サイドを編み込みにしたハーフアップでこちらも負担はあまりかからないようにしてくれていた。

「お食事はこちらにお持ちするのでよろしいでしょうか?」

「うん、お願い。」

「かしこまりました、少々お待ちください。」

まるでリンネが部屋から出ていくのを待っていたかのようにヴァルテリは続き扉を開けてアイリーンの部屋に入ってきた。

「あっ、ヴィック!
なんで起こしてくれなかったの?

起きたときにいなくてさみしかった…」

「ニーナの寝顔をずっと見ていたかったからな。

それに疲れているだろう?」

ヴァルテリのいうとおり、アイリーンは今日はどこにも行きたくないくらい疲れていた。

何度も何度もヴァルテリに愛された証拠だった。

「今日のニーナの予定はすべてキャンセルした。
どうだ?
今日ももう一度…?」

「えっ…

でも、ヴィックにまた愛されるなら…」

「かわいいニーナを何度も愛したいけれど、2日も続けて夕食の席に行かないのはまずい…

夜でもいいのだが、ウェディングドレスを仕上げて、スリジエの刺繍をしてくれないと、結婚式も挙げられない…

うーん、残念だ…」

「もし、私がドレスを仕上げて、刺繍も終えたらまた愛してくださいますか?」

「ニーナ、そんなに言われると今すぐにでも…」

ふたりが愛をささやきあっているとき、サンドイッチを台に乗せたリンネが戻ってきた。

「ヴァルテリ様、自室に戻ってください。
私のお嬢様を骨抜きにするなんて…」

それでも戻ろうとしないヴァルテリにしびれを切らしたリンネはヴァルテリの部屋に続く扉を開け、再度戻るように促した。

「ニーナ、もう戻らないとみたいだ…
ずっとここにいたいけれど駄目みたいで…

でも約束する!
刺繍まで終えたら何度でもニーナのことを愛…」

愛をささやいていたヴァルテリなどお構いなしにリンネは続き扉を閉めた。

その後、ヴァルテリ側の扉から扉をたたく音や、ニーナの愛をささやく言葉が少しの間続いたのは言うまでもなかった。