「アイリーン・キャンベル様、ニコラス・キャンベル様」

王宮の侍従によって広間にいた全員に到着を知らせると二人の前のドアは大きく開けられた。

そして、ニコラスのエスコートによってアイリーンは広間へ足を踏み入れた。

初めて参加する王宮の舞踏会はアイリーンの心を虜にするのに十分だった。

きらびやかな衣装に身を包んだ貴婦人、アイリーンと同じく今日がデビュタントの令嬢たち。
この場にいる全員がみな輝いていた。

アイリーンがニコラスと談笑していると、音楽隊が演奏を始め、ダンスの時間となった。
ニコラスがアイリーンに手を差し出すとアイリーンはその手を握り、二人のダンスは始まった。

アイリーンのダンスはとても優雅で蝶が舞うように踊っていた。

周囲のペアはいつしか、二人のダンスに夢中になり、踊るのをやめてしまうくらいだった。

曲が終わった後、アイリーンの周りには男性が多く集まり、次のダンスを申し込んできた。

(ここで多くの人と踊ってしまっては女性陣から反感を買う…
ほら、やっぱり敵意の目で見てくるし、でも当たり前だよね、フィアンセがほかの女性に色目を使っていたら私も嫌だし…)

「ごめんなさい…
皆様と踊りたいのですが、慣れない靴で踊ったから靴擦れができてしまい、少し休ませてください。」

本当は靴擦れなどできていないけど、こう言えばだれからも反感を買うことなく、踊らずにいられるのだ。

周囲の男性たちはアイリーンの元を離れ、ほかの人とダンスを楽しんでいた。

「アイリーン、靴が合わなかったのか?」

心配そうに声をかけてきたニコラスにアイリーンは笑顔で答えた。

「違うわ、お父様。
私、たくさんの方と仲良くなりたいのですが、この場にいる多くの女性方が私のことを殺気立った目で見ていたからお断りしたの。」

「なに?
私の娘に対してそんな目で見ていたのか?」

「違うわ、お父様。
誰だってフィアンセを取られたら怒りますわ。
私だって未来の婚約者を取られたら嫉妬してそのような目で相手のことを見てしまうわ。」

「そうか、そういうものなのか。
年頃の娘は難しいものだ。」