ヴァルテリが国王になってから早くも2年が経とうとしていた。

この日、アイリーンとヴァルテリ、サクラとハイメの4人でいつものように朝食をとっていた時、事態が急変した。

扉の外で護衛兵士と誰かの争うような声が聞こえ、勢いよく開いた扉。
扉の前にはどこかの貴族の私兵と思われる人がいた。

「お食事中、申し訳ございません。
急ぎ、国王陛下、王妃陛下にお伝えしたいことがあります。

ご無礼を承知で参りました。
どうか、お話を聞いてはいただけないでしょうか。」

ただならぬ事態であると察したヴァルテリは謁見の間ではなく、アイリーンとヴァルテリの政務室へ向かった。

サクラとハイメにそのまま朝食を食べるように伝えてからアイリーンも政務室へ入室した。

「何があった?
そのような格好をしているところからして緊急事態だということは分かったが…」

「私は父、グランディエ辺境伯の使いで参りました、マリーアンヌ・ド・グランディエでございます。

一昨日、隣国のキール帝国が我が辺境伯領に侵入してきました。
どうにか私兵だけで解決できないか試みたのですが、どんどん勢力を強め、私兵だけでは手が付けられなくなっております。

陛下、どうかお助け下さい。」

私兵の格好をしていたのは辺境伯の令嬢だった。デビュタントの時のみドレスを着用し、その後は軍服を身にまとって私兵とともに訓練をしている令嬢がいると噂には聞いていたが、会ったのが初めてだったので、アイリーンとヴァルテリは少し驚いた。

「ついにキール帝国が動き出したか…
いつか侵略されると思っていたから、護衛騎士の中から数名派遣していたがそれでもだめか…

よし、第一部隊、第三部隊、第七部隊を向かわせる。」

ヴァルテリは扉の外に控えていた護衛騎士に招集命令を伝えた。

命令を聞いた護衛騎士は急いで宿舎のほうへ向かった。

「グランディエ辺境伯でも手が付けられないとなると相当だな…
アイリーン、俺がいない間、この王宮を頼む。

辺境伯には返しても返しきれないくらいの恩があるんだ、困っているのなら俺もいかないと。」

まさか国王直々に戦場に行くとは思っていなかったので、アイリーンもマリーアンヌも驚きを隠せなかった。

「わかりました。
本当は分かりたくないのですが、あなたに剣術を教えてくれた方ですものね。

ヴィック、こちらのことはお任せください。
あなたは辺境伯への恩を返してきてください。」

アイリーンは本当はそんな危険な場所に行かないでと伝えられるものならば伝えたかった。

でも、ヴァルテリが困っている人を放っておけない、まして恩師にあたる人が困っているならば助けなければならないという性格を持っていると知っていたので、止めなかった。

「ありがとう、ニーナ。

マリーアンヌ殿、15分時間をください。
そしたらすぐにでも出発いたしましょう。」

「陛下、感謝いたします。」

ヴァルテリは支度をするために政務室を後にした。