「わあああーーーあああーーーいやあーーーーー」

 絶対拒否。

(拒否なら拒否で、口を閉じていればいいものを)

 亜里は舌打ちしたい気持ちをぐっと抑える。

 食事を摂れないと、元いた施設に帰れないと言われているので、なんとか食べさせたいところだ。そして早く帰ってほしいというのが看護師たちの本音。

 彼がいた施設では、点滴ができない。病院のように栄養剤の点滴でもたせるわけにはいかない。そして施設では食事を摂っていたというのが不思議だ。

「病院食がそんなにまずいのかな。せめて薬だけでも」

 プリンに薬を埋め込んで強引に口に押しつけると、彼は入れ歯で食い縛り、拒否。

 病棟の看護師の誰がやってもこう。スプーンを引けば叫び出す。全員がもううんざりだ。

 血管が浮かび上がりそうな亜里の手に、誰かの手が添えられた。

 白く細い手は、皐月のものだった。

 彼女は微笑みを浮かべ、亜里に目配せをしてからスプーンを取り、患者さんと向き合った。

「佐藤さん、しっかり食べないと帰れないから頑張ってね」

 叫んでいた佐藤さんが黙った。じっと皐月を見ている。

「ねえ、私とお食事しない? これ、私が作ったの」