「すまない。シーツが風で飛ばされてしまって。すぐ失礼するよ」

 ルークが柔和な声音で言うが、子供は警戒を解かない。曇りなき眼でじっとふたりを見つめている。

「ふーん」

「ねえ君、つかぬことを聞くけど、さっきのお腹の大きなおじさん、ここによく来るの?」

 アリスが興味本位で尋ねると、少年はうなずいた。

「あいつ、国境警備隊の副長なんだ。うちの薬を買いに来るんだけど、いつも強引にツケにするんだ。大迷惑だよ」

「薬を?」

 ルークは表まで回って建物の入口を見た。控えめな小さな看板に『薬』の文字が。

 警備隊には余計な予算がない。薬が欲しくても、副長の自由になる金は実はあまりないのだ。ある分全て個人的なアルコールに変わっていると思われる。

 彼はそれを一般市民に知られたくなくて、ツケと称してタダで薬をもらっていくのだろうか。ただ単にケチで横暴なのか。

 アリスは腹が立った。亜里だった頃も、アル中患者が入院費を払わず帰っていくのを歯ぎしりして見ていたものだ。

 彼らは支払い能力がない。そこには様々な事情があるにせよ、「酒買って飲む金があるなら入院費払えよ!」と思ってしまうのが人間である。