翌日も亜里は日勤だった。
今日の病棟は昨日よりもだいぶ落ち着いていた。
ナースステーションに連れてきた認知症患者のテーブルに食事を置き、亜里が介助の用意をしていると、病棟担当の栄養士が分厚いファイル片手にやってきた。
彼女は亜里の同期の皐月。四大を出ているので亜里より二歳年上。
栄養士は看護師よりも身だしなみ規定が緩いので、ゆるふわな髪をまとめ、化粧をばっちりしている。
「こんにちは。今日も忙しい?」
「聞くまでもないよー」
師長の視線を感じたので、亜里は雑談のボリュームに気をつけることにした。
皐月は登場した途端、数人の看護師に囲まれ、栄養の相談を受けている。
アレルギーがある人、糖尿病の人、嚥下に問題のある人、胃瘻の人など、多種多様な患者さんの栄養の相談に乗っている彼女を見て、亜里はいつも感心する。
「はい、食べて」
亜里は患者の横に座り、おかゆをスプーンですくって口に近づける。
「いやーーーだーーーー」
突然大声で叫びだす男性患者。強度の認知症だ。彼の声は隣の病棟まで届き、度々クレームが来るほど大きい。
「そんなこと言わずに。あ、今日はプリンもついてる。プリンだけでも食べてみようか」
おかゆを一旦戻し、プリンを近づけてみる。



