(亜里の記憶がそうさせるんだ)
キツイ、汚い、休めない、患者もその家族もウザい。
毎日毎日ネガティブな思いを抱えながらも、亜里は看護師を辞めようとはしなかった。
彼女の根底には、“病める人の手助けをしたい”という思いがあったのだろう。
結局、不潔や不摂生から生まれる病の温床になりそうなこの城とここの人たちを、放っておけないのだ。
しいんと静まり返った広間に、拍手が響いた。
それはアリスのすぐ傍から聞こえてきた。無論、手を叩いていたのはルークだ。
「俺は全面的に、彼女を支持する」
立ち上がったルークにつられたのか、あちこちでぱらぱらと拍手が起きた。それはだんだんと数を増し、大きな音に変わった。
(自由な生活を制限されるのが嫌なひともいるだろうけど……おおむね、大丈夫そうかな?)
病院での治療と一緒で、アリスがいくらこの城の状況を変えようと思っても、本人たちの協力が得られなければ無理だ。
彼女が小さく安堵のため息を吐き、座ろうと思うと。
「とんだ茶番だな。付き合っていられるか」
一番奥の席から、太い声がした。
アリスが視線をやると、声の主がだるそうに立ち上がる。