午後は午後で、患者の家族のとんちんかんな質問責めに捕まったり、叫んで暴れる認知症患者の対応で、全く仕事が回らなかった。
記録を終え、亜里が家に帰って時計を見たら夜十時。
(おいおい、定時は五時半のはずだけど?)
ひとり暮らしの小さなアパートで倒れ込むようにベッド脇に座り、コンビニで買ってきたパンを齧る。
(寂しすぎる……)
疲れ果てた亜里は、這うように動いてなんとかシャワーを浴び、ベッドの上にある携帯ゲーム機を起動した。
「お願い、私を癒して……」
寝る前にベッドに潜り、ゲームをするのが亜里の日課だ。
画面に2Dイケメンの画像が表れ、イケボで語りかけてくる。
『どうした? 疲れてるみたい。がんばりすぎたのか?』
「そうなの。超疲れてるの私」
今亜里がはまっているのは、いわゆる乙女ゲームというもの。
魔法学校で魔法と特殊スキルを磨き、五人いる王子の誰かと仲良くなり、最後は婚約するハッピーエンドストーリー。
どの魔法とスキルを磨くかで、それぞれの王子の親密度が変わってくる。



