「そうそう。一緒に暮らしていれば情が湧くものだ。大丈夫大丈夫」
やたらと「大丈夫」と連呼されると、余計に不安になる。
「ルーク王子はどうして学校の講習をしないの?」
「え……どうしてだろうな。口下手だからかな」
父は何かを隠している。アリスは直感的にそう思った。
たしかにルークは饒舌とは程遠いキャラらしい。無口というか、無愛想というか。
「もういいわ」
アリスは乱暴にナイフとフォークを置き、席を立った。
引き留める両親の声を聞こえないフリをし、部屋を出ていく。
情報も出さないし、気持ちもわかってくれない両親はもう頼れない。
(スマホさえあれば、隠しキャラの情報をもっと探せるのに)
亜里であるときは、何を調べるのにもスマホに頼っていた。
(明日モブのところでも行ってみようかな。誰かなにかを知っているかもしれないし)
この世界では、情報は自分の足で取りにいくしかない。
ため息をついて厨房の傍を通りすぎるとき、声が聞こえた。
「アリスお嬢様も可哀想にね」
ぴたりとアリスの足が止まった。
見ると、厨房のドアがわずかに開いている。隙間からメイドたちの声が漏れてきた。