その日の夜、アリスは両親と夕食をとることになった。
大きな長テーブルの上に、何種類もの料理が並ぶ。
「アリス、婚約おめでとう」
アリスの父がワイングラスを傾けて笑いかける。
でっぷりとして鼻の下に髭を生やした、貴族のデフォルトみたいな見た目の彼は、今日城に呼ばれ、正式に婚約を結ぶ手続きをしてきたらしい。
王族の求婚を拒否できないのはアリスもわかっていた。ただ、自分がいないところで事態が動いていくのが面白くなかった。
「おめでたくないわ」
「そんなことを言わないで、アリス。アーロン殿下の妃になれるのだから」
眉をひそめてアリスをたしなめるのは彼女の母。アリスと同じプラチナブロンドとアイスブルーの瞳をしている。
「私が殿下の妃になって嬉しいのは、お父様とお母様だけよ。私は相手がどんな人かも知らないのよ」
娘に責めるようににらまれ、両親は口ごもった。
王家に嫁いだ令嬢の実家は、国に守られる。一生食べるに困ることはない。
「それは……ねえ。まあ大丈夫よ。顔も見たこともない人と結婚するのも、昔ではよくあることだったし?」