立ち上がった国王に手招きされ、アリスは半ばむりやり舞台に上げられた。背中をソフィアがグイグイと押してくる。

「皆の者、第六王子ルークの婚約者もついでに披露しておく」

 楽隊は音楽を奏でるのをやめ、踊っていた人たちが驚いた顔で舞台を見上げる。

(いやいやいやちょっと待って! 私はこれから、新しい人生を始めるところなの。のんびり恋愛をして、できなければ薄い本でも作って毎日楽しく暮らすの)

 そう思っていたのに、いきなり知らない男と結婚とは。自分はどこまでツイていないのか。

 アリスは泣きそうになった。

(やだよう。のんびり好きなことだけしてダラダラ過ごしたいよう)

 第一王子、アーロンとソフィアの時とは全く違う目線がアリスを突き刺す。

 その目線は祝福ではなく、好奇に彩られていた。

 ふと横を見ると、アーロンに寄り添うソフィアがほんの一瞬、「ざまあ」な表情で静かに笑った。

(こいつ、わざとね)

 わずかな表情を見逃さなかったアリスがギリッと奥歯を噛み、ソフィアを睨む。

 彼女はふいと会場の方に向き直り、あざとい微笑みを浮かべた。