看護師時代の苦渋を思い出す。
病院には飼い殺し、患者や患者家族にはサンドバッグにされていたあの頃。
不愉快な気持ちを抑え、アリスは顔を上げて立っていた。
取り巻きの令嬢たちは、ソフィアに対する敵意を失ったアリスには興味がなくなったようで、それぞれ誘われて踊ったり、アリスと同じように壁の花になっていたりする。
数曲終わっても一向に声がかかる気配がないので、さすがのアリスも心が折れかけた。
(仕方ない。今日は帰ろう。ほとぼりが冷めたらいい出会いもあるでしょう)
執事の姿を捜し、会場を出ようとした矢先。
「そこのお方、待たれよ」
低い声に胸が高鳴った。
(とうとう声がかかった。しかもイケボ)
たった一言だったので、どのキャラクターかはわからなかった。
期待を込めて振り返ったアリスの前に立っていたのは、金髪の男性だった。
陶磁器のような白皙の肌に、金色の髪。右は碧、左は琥珀色のオッドアイ。
すらりとした体躯に、小奇麗な身なり。胸には王家の紋章が着いている。
(王子? でも、こんな人攻略キャラにいなかった気が……)
きょとんと見上げるアリスに、男性は手を差し伸べた。



