ざわめくその場をとりなすように国王が両手を打ち鳴らすと、楽隊が優雅なワルツを奏でる。
すると人々は自然に壁際に寄り、広間の真ん中を開ける。
男性とオファーを受けた女性のペアが、次々に空いたスペースに出て踊り始めた。
もちろんその中で一際人目を引くのは、今宵の主役であるアーロン王子とソフィアだ。
アリスはそのふたりには目もくれず、周りをきょろきょろとうかがっていた。
(そういえば、舞踏会って男性から女性に声をかける決まりなんだっけ)
前世から男性に声をかけられたことがないアリスは、くじけかけていた。
推しである第二王子は、既に別の令嬢に声をかけ、踊っている。
曲が変われば相手が変わる場合もあるが、これだけ大勢の令嬢の中から選ばれるのは至難の業だ。
仕方なく飲み物を取りに壁際に寄ると、近くにいた男性たちがすっと一歩後ろに下がるのを彼女は感じた。
(え……もしかして、悪目立ちしちゃった?)
理解しがたい能力を目の当たりにして引いてしまう気持ちはわからないでもないが。
(やっぱり、人助けしたっていいことなんてないのね)



