悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています


「悪魔だ! 悪魔憑きだーっ! 祈祷師を、祈祷師を呼べ―っ」

 いきなり叫び出した近くの男性を見上げ、アリスは声を張り上げた。

「あなたバカなの!? これは過呼吸による痙攣よっ! 集団ヒステリーになるといけないから静かにしてっ」

 この世界では医療が発達していない。痙攣という現象も一般人は知らないので、まるで悪魔に憑かれたかのように見えたのだろう。

「聞こえますかー? ゆっくり、ゆっくり息をしてくださーい」

 亜里が看護師時代に身につけた、患者への話し方が自然とアリスの口から発される。

 令嬢の痙攣はすぐにおさまった。しかし、依然としてパニック状態が続き、アリスの声は聞こえないようだ。

「仕方ない。だれか、袋を持ってない? 紙袋!」

 アリスは顔を上げて右手を差し伸べるが、その手に袋を渡す者はいない。

 それどころか、輪をつくるように、じりじりと令嬢とアリスは遠巻きにされていた。

(もう! 紙袋さえあれば、すぐに処置できるのに)

 過呼吸は浅く早い呼吸を繰り返したために起きる症状だ。血中の二酸化炭素濃度が低くなっているため、自分が吐いた二酸化炭素を吸わせると、濃度が整う。

 ただ、この方法は素人が自分でやると二酸化炭素濃度が上がりすぎて危ない場合もある。