急変の際、家族と本人の意向によって、なにもしないで自然に天に召されるのを待つのがDNAR。

 心臓マッサージから昇圧剤から人工呼吸器から、なにからなにまでやらなければならないかがフルコース。

 どうするかは、入院時に家族と話し合い、どうするか決まっている。

 到着した主治医に指示を仰ぎ、家族を待ちながら看護師は心臓マッサージと輸液の準備をする。

 患者の顔は土気色、肌は冷たく湿っていた。

 ぽかんと開いた口の中は、ブラックホールみたいな真っ暗な深淵。

 看護師の努力でなんとか心拍再開し、家族が着くまでもたせることができた。

「おじいちゃん、おじいちゃん」

「なにかもっと、他にできることはないんですか?」

 涙目で訴えられても。できることをしてきた結果がこれだから。

 と亜里は思ったけど、もちろん口にはしない。

「オムツ交換だけは時間通りに回ってくるけど、他に何かやってくれたっけ」

「先生も適当にやってたんじゃないかい。うちが金持ちじゃないからって」

 かわるがわる責められて、後輩が泣きそうになっていた。