亜里はぴたりと怒りを止めた。

(私が愛する世界。それって……)

 彼女が愛するものと言えば、ずばり二次元。

「おまけもつけておくから、来世は幸せになれるように頑張るんじゃぞ~」

 じゃぞ~。じゃぞ~……。

 無責任な神の言葉が水の中でこだまする。

(ちょっと待って、詳しく説明してよ!)

 亜里は丸まっていた体を思い切り伸ばした。

 その瞬間、カッと閉じていたまぶたが開いた。

 見知らぬ広い天井が彼女の視界に広がる。

 乱れた息を整え、上体を起こした。

(ここは……)

 路上で死んだ亜里は、なぜかふかふかのベッドの上にいた。

 きょろきょろと周りを見回すと、西洋アンティーク風の家具に囲まれていることがわかる。絨毯が敷き詰められた部屋は、ひとり暮らしのワンルームより大きい。

 ゆっくりベッドから降り、壁際にある姿見のカバーを外す。と、自分の姿がそこに映り込み、亜里は息を飲んだ。

「う、嘘でしょおおおおっ!」

 姿見の中にいるのは、艶やかな銀髪に、冷たいアイスブルーの瞳をした少女。

 気の強そうなその顔は、亜里が死ぬ間際にプレイしていたゲームの悪役令嬢そのものだった。