「お妃様、大変です!」

 城に戻ったアリスに、隊員が血相を変えて駆け寄った。

「どうしたの?」

「稽古中に倒れて、意識が戻らないやつがいて」

「熱中症かしら」

 アリスは腕をまくり、医務室の方へ駆けだす。ルークはそのあとをついていった。

「まず体をよく冷やして。脇と股に氷を!」

 熱中症患者を見たアリスは素早く隊員に指示し、自身は点滴バッグを召喚した。

 権力から離れ、ゆるゆると毎日を送りたいというアリスの願いは、完全には叶えられていない。結局、なんだかんだ忙しい。

 が、亜里が遺した「誰かに愛されたい」という願いは、しっかり成就した。

 特殊スキルを与えてくれた神に祈る暇は、アリスにはない。

 彼女はただ目の前にあることを、全力でやっていくだけだ。

 ルークが彼女の手元を照らす。

 処置が終わると、ふたりは視線を合わせて微笑みあった。


【end】