亜里は生温かい水の中を漂っていた。

 目を閉じ、拳をにぎり、膝を折り曲げ、丸くなって。

 水の中だというのに苦しくはない。むしろ心地よくさえ感じる。

 穏やかに揺蕩っていた彼女の耳に、声が聞こえた。

「亜里よ。この度はわしの手違いでそなたの命を奪ってしまったこと、遺憾に思う」

 しゃがれた老人の声だ。亜里は耳をすませる。

「わしは神じゃ。あの事故に、そなたは巻き込まれるはずではなかった。そなたは今夜も家に引きこもりゲームをしておると思ったら、なぜか友人と食事をしておった」

 どうやら、神様の手違いとやらで亜里は死んでしまったらしい。

(なによ手違いって。まだクリアしてないゲームがあったのに。競争率がバカ高い舞台のチケットも当選していたんだ。どうしてくれる)

 遠慮なく神に怒りをぶつけると、申し訳なさそうな声が返ってきた。

「すまんかったのう。いくら恋人も結婚の予定も未来の希望もなかったとはいえ、無駄死にさせてしまったのは本当に申し訳ない」

 悪意を感じる神のセリフに、ますます怒りを感じる。

(そんなもんなくても、それなりに楽しく生きていたのよ私は!)

「わかっておる。なのでせめてもの罪滅ぼしに、そなたの愛する世界に転生させることにしたからの」